凄腕?ブランズとは何者か。敏腕FDの仕事ぶり
- 鈴木(副代表)
- 2019年1月12日
- 読了時間: 5分
21試合を終えて11位という、なんとも評価しづらい成績を残している今季のエバートン。「エバートンらしい」成績と内外で評価される中、意外とエバトニアンはいつもより希望を持っていたりもする。それはなぜか?答えは、今季の補強が大当たりだからである。 リシャルリソンは開幕から躍動し、堂々たるエースに君臨。ディーニュは攻守に安定感を発揮し、ゴメスは中盤を支配しファンを魅了している。大量の不良債権に喘ぎ、降格圏にまで沈んだ昨季とは大違いだ。 大成功した今季の補強を主導したのは、新しくFDに就任したマルセル・ブランズ。アーキテクト、“建築家”とも称される、ブランズとは果たしてどのような人物なのか。地元紙LiverpoolECHOなどの記事をもとに、仕事ぶりをまとめてみた。

ブランズの経歴
1981年にデン・ボシュにてプロサッカー選手としてのキャリアを開始。NACブレダ、フェイエノールトなどを渡り歩き、1998年に引退。RKCワールワイクの選手として350試合以上に出場した。
引退後はRKCワールワイクのFDに就任し、マルティン・ヨル(後にトッテナム監督も務めた)を監督に指名した。その後2005年にAZのFDに就任し、ここではファン・ハールを監督に迎える。ブランズ-ファン・ハール体制のAZは2008-09シーズンにオランダリーグ(エールディヴィジ)を制する。オランダリーグを三強(アヤックス、PSV、フェイエノールト)以外が制するのは実に28年ぶりという、記録的な快挙であった。
AZでの功績が評価され、2010年からは名門PSVのFDに就任する。在籍した8年間でチームの強化に成功し、後半の4年間ではオランダリーグ3回の優勝とアヤックスを圧倒するまでに至った。そして、2018-19シーズンより満を持してエバートンのFDとしてプレミアリーグに参戦を決めた。2019年1月にはエバートンの役員も兼任することが発表された。

選手を一流に育てる
ブランズの補強方針は、若い選手を発掘し自チームで一流の選手となるべく教育を施すこと。発掘した若手としては、ワイナルドゥム、デパイ、ロサーノ、メルテンスやストロートマンなど有名だろう。 ブランズ就任以前のPSVはCL出場の賞金を目当てに予算編成をして、CLに出られず赤字に喘いでいた。ブランズは就任すると、PSVのスカウティングチームを再編成。若手や評価の低い選手を安価で獲得し育成、高値で売却する方針を実行した。結局、在籍した8年の間に選手売却で2億ユーロの収入をもたらし、見事に黒字転換に成功した。

では、なぜ彼は間違いなく「選手を見つけ、育て、売る」ことができるのだろうか。
まず、発掘に関していえば、彼は若い選手について詳しい。特に16-18歳の選手に関しては世界中にアンテナを張っており、自チームで通用するか調査している。PSVではブランズの部下としてスカウトを7名雇っていて、一人の選手に関しても複数人にレポートを作成させていた。スカウト陣の現役時のポジションは様々で、意見がぶつかり合うようにしている。ちなみに、PSV時代にはセルティックで活躍したヤン・フェネゴール・オフ・ヘッセリンクもスカウトの一員だった。 また、獲得候補は必ず自分で現地に赴いて確認している。ブランズによれば、「データを見て、プレーを実際に見てもまだ足りない。選手の人となりも知りたい。そのために足を運ぶことは惜しまない」
そして育成。ブランズは一人一人の選手に明確なキャリアプランを考えて提示する。キャリアプランは長期的なもので、選手の将来を考えたものだ。ロサーノの獲得の際、他クラブとの競争になったが、ロサーノの実家に2度も足を運んだことに加えて、この長期的なキャリアプランも決め手となったと言われている。
このキャリアプランを実現するためにブランズは選手に様々なことを選手に要求する。外国語や栄養学といった座学に取り組ませ、ピッチでは複数のプレースタイルを経験させる。かつて、ワイナルドゥムは10番の選手としてプレーを好んでいたが、ブランズの説得でサイドでのプレーも経験した。このように、彼は選手に細やかに気を配り、次のステップのための準備をさせている。
「良い選手であっても、さらにチームに馴染まなければならない。だから、監督と選手がどのような関係にあるかも常に気にしている。他のチームのスカウトからはどう見えるか、チームメイトとはうまくやれるか、なんてことも気にしている。人間は一度持った先入観はなかなか変えられないから、大事なことだ」とブランズは言っており、気配りの程が窺える。

エバートンに来て以降
一年越しのラブコールに応えて、エバートンに加わったブランズは、まずスカウティングチームを再編成した。スカウトを側近として抱えていたPSV時代と違い、それぞれ地方に拠点を置いて活動するスカウトに併せて、イギリスチームとヨーロッパチームを新たに発足。イギリスチームのリーダーにはマーティン・グロバーを、ヨーロッパチームのリーダーにはグレタール・スタインソンを任命し、リーダーたちから月例報告を受ける形で選手調査を行っている。
「スタインソンは“闘牛”だね。狙った獲物にどこまでも食らいついていく。我々は常に交渉に成功するわけではない。しかし、不可能にも挑戦しないことには始まらない。スタインソンは勉強熱心だし、まさしく挑戦できる男なんだ」とブランズは言う。
今夏、ブランズの手腕が最も発揮されたといえるのは、ミナの獲得だろう。当初、バルセロナは1億ユーロという法外な契約解除条項を突きつけてきた。しかし、結局それの3割ほどの価格で獲得できた。その理由は、ブランズは決して価格において譲歩しないことにある。ブランズが獲得において、最初に交渉するのは自分のクラブの首脳陣だ。首脳陣に掛け合い、獲得予算の上限を設定している。こうして足場を固めた上で、相手クラブに出向き、交渉を始める。そして、ブランズは自分のチームの評価額以上は払わない、と言って譲らない。結果として、今回のミナの交渉は移籍期限最終日までバルセロナの担当者と揉めることになったが、大幅なディスカウントを認めさせた。
まとめ
2019年1月には、ブランズがエバートンの役員に加わることが合わせて発表された。長期的にエバートンで働くことが予期される。新スタジアムの建設予定も控える過渡期のエバートンの新時代をどのように築いていくのだろうか。今までの輝かしいキャリア同様の仕事に期待したい。

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